アートの定義を壊すファッション。アンドリュー・ロッシ監督が映画『メットガラ』について語ったこと
こんにちは。映画で美活するをモットーに活動している映画美容ライターの此花さくやです。
4月15日に公開されたドキュメンタリー映画「メットガラ ドレスをまとった美術館」をもう観ましたか? 今回は、監督のアンドリュー・ロッシのインタビューをご紹介したいと思います。↓海外サイト『the Film Experience』のジョズ・ソイルとのインタビューより(部分的に抜粋して意訳しています)。
ーこの映画の題材を決めた理由は?
↑アンドリュー・ロッシ監督
ロッシ監督「ヴォーグ誌に映画を作ることをアプローチされたんだ。パーティについてではなく、アートの役目、ファッションビジネス、アンドリュー・ボルトンの“旅”を通じて明らかにするメットガラの裏舞台、メットがなぜ素晴らしい美術館なのか、アナ・ウィンターの素顔、などについて興味があった。
反対に、メットガラの華やかさ、煌びやかさだけにフォーカスするのは興味がなかったんだ。ただ、アンドリューの企画展が注目を集めるためには、メットガラの“華やかさ”がやはり必要なんだと実感した。そして、モデルがレッドカーペットで素晴らしい衣装を着て歩くこと自体が、実は“パフォーミングアート”だと思ったんだよ。
例えば、デザイナー、グオ・ペイの黄色いドレスをリアーナが着てレッドカーペットを歩くことによって、着ているドレスが単なるファブリックではなくなる。衣装から透けて見えるリアーナという“生き方”と、2年もかけて作られたドレスが合い混ざって“the Queen of the Night”としての圧倒的な存在感を放つんだ。シンデレラのようにメットの階段を上るリアーナ、なんてエキサイティングなんだろうーー」
-本作で私の好きなシーンは、ビヨンセ、ケイティ・ペリー、シエナ・ミラー、ウマ・サーマンらがリアーナのライブで踊っているところなんです。ファッションを題材にした映画は「世俗的で浅い」という印象をうけやすいと思うのですが、私には監督がアメリカのソーシャルクラス(階級社会)を描いているように感じました。
どちらかというと貧しい階級出身のリアーナが上流社会のパーティーであるメットガラのスターにのぼりつめる。そして、少年の頃からメットで働きたかったアンドリュー・ボルトンもメットでキュレーターとして成功する……。アメリカンドリーム的なストーリーにも仕上がっているように見えます。
「まったくそのとおり。ファッションの役割はロマンスとファンタジーだよ。ファッションは“贅沢品”以上の意味がある。この作品では、ファッションはジェンダー、セクシュアリティ、ポリティクス、階級、クリエイティビティを表現する“心”だと伝えたかった。それに、ファッションは自分たちのバックグラウンドや過去から逃避するためのものでもあるんじゃないかな」
ーアンドリュー・ボルトンの企画展がひときわ印象的な理由は、テーマに潜む“会話”にあると思います。マックイーンの企画展では、「死と欲望」。映画に出てくる『鏡の中の中国』展では「東洋と西洋の会話」。二つの異なる世界が“会話”しているように思えます。監督も、本作を撮る際に“会話”という点を意識しましたか?
↑キュレーターのアンドリュー・ボルトン。穏やかで知的なファッションおたく!
「この映画もそうだけど、前作の『アイボリー・タワー』でも“Institution”の裏舞台にフォーカスしたつもりだ。あるカルチャーの重要な部分に焦点をあてて、“なぜ重要と考えられているか”を分析してみたんだ。『アイボリー・タワー』ではテクノロジーを“破壊的な力”として描いているけれど、反対に、『メットガラ』では服飾部門が“破壊的な力”としてポジティブに作用していることを描きたかった。
ファッションは、絵画や彫刻とかなり異っていて、観客をひきつける力が非常に強く、資金集めのプラットフォームになっている。だからこそ、メットは幅広い客層を得られることができた。しかし同時に、19世紀に確立された“アートの定義”を破壊してしまったんだ。この矛盾が、“会話”として映画に描かれていると思う」
ロッシ監督のインタビュー、いかがでしたか? “二つの世界の会話”という視点、おもしろいですね~!「ファッションはアートか?」という論争は特に新しくないのですが、メットガラという分かりやすいイベントに落とし込んだところがこの映画の魅力。
だからこそ、高尚なテーマのドキュメンタリーなのにスリリングなリアリティ番組のようで、観てて飽きないんですよ!(特に、ジェニファー・ローレンスの歩き方や表情がおもしろい~!)
私もメットガラの裏側について記事を書いたので、よかったら読んでみて下さいね。
映画『メットガラ ドレスをまとった美術館』はBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開中
写真:(C) 2016 MB Productions, LLC